
© 2025 Kenshi Daito
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写真展 東京オルタナ写真部 #9「歴史/現前」
2025年4月1日(火) ~ 2025年4月6日(日) ※12:00-18:00(日曜17:00迄)
写真とは何か、作品とは何か。
この問いは写真作品を制作する者に常に現れ続ける難問です。この問題を言葉で考えようとすると自分にとってかけがえのない意味が失われていき、逆に自分の意味をつかもうとするとかえって意味のあることは何も言えなくなってしまいます。このような、最も重要な意味の芯が目の前から逃げ去っていく状況を、思想や美術では「不在 absence」としてテーマ化してきました。
しかし私たちは、作品表現は自分にとってかけがえない意味であることを手放さないでいたいと考えます。すなわち表現の現場は「不在 absence」ではなく「現前 presence」であると改めて明言したいと思います。
とはいえ、写真は「それはかつてあった」ことを指し示すメディアです。また、「美術」や「作品」は長い歴史の中で形作られてきた制度であり、その大きな背景と無関係に作品制作をすることはできません。この意味で写真作品は本質的に過去にあるもの、つまり歴史的な存在であり、自分が個人的に経験するいま現在の意味とは対極に位置するものです。
写真作品が宿命的にもつ過去という性質と、表現がつかもうとする自分のいまの固有の意味。この両者は鋭く引き裂かれていて、ひとつに統合することはほとんど不可能のようにも思えます。今回、私たちのグループ展は『歴史/現前』という共通テーマで、この問いに向き合いたいと思います。
東京オルタナ写真部
オルタナティブ写真は、アナログ写真技法による新しい表現を目指すムーブメントです。私たち東京オルタナ写真部はワークショップ、読書会、批評会、グループ展を通してこの古くて新しい写真表現に取り組んでいます。

© 2025 Shuhei Maeno
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前野周平 写真展
『 流 ru 』
2025年4月15日(火) ~ 2025年4月20日(日) ※12:00-18:00(日曜17:00迄)
私が子どもだった頃、母は海に連れて行ってくれた。
昼間の海は穏やかで、何もかもがゆっくりと流れていた。
母は夜の海にも何度か私を連れて行ってくれた。
そこは昼間の海と同じ場所とは思えないほど深く滑らかに黒い。
本質的に恐ろしいものが底に沈んでいるように感じた。
波打ち際にすら近づけない。
私は怖かった。
母はひとり、波打ち際へ進んでいく。
その後ろ姿はとても強く、そして遠かった。
*
母は歩けなくなった。
痛みも温度も存在しないものかのように、足の感覚がなくなってしまった。
*
ある夏の日、私は川にいた。
足を浸すと、とろみを帯びた水は私の足にやさしく絡みつき、
陽の光を受け水面は小さく輝いている。
目を閉じる。
目蓋の奥に届いた水面の瞬きは、徐々に私の視界を満たしていき、
足に感じる流れは、より細かく鮮明になっていく。
その場に留まっているのか、流されているのか、
私が流れを置いていっているのかわからなくなる。
ただ、静かな感覚に包まれるようだった。
ふと、あの黒い波打ち際に佇んでいる母の姿が浮かぶ。
あの時の流れの感触を私は知らない。
私はただ遠くからそれを眺めていた。
前野周平 まえのしゅうへい
1990年 鹿児島県生まれ
2012年 東放学園映画専門学校卒業
2012年 撮影部として、映画、ドラマ、CM製作に従事
2018年 フォトグラファーアシスタント
2021年 映像を中心に活動中

© 2025 Ikuko Tsurumaki
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鶴巻育子 写真展
『 ALT 』
2025年5月13日(火) ~ 2025年5月25日(日) ※12:00-18:00(日曜17:00迄) 月曜休廊
【第33回林忠彦賞受賞記念】写真家・鶴巻育子が視覚障害者と関わりながら「見ること」について思考を巡らせるプロジェクト「ALT」。東京のキヤノンギャラリーSで開催された展覧会は大きな反響を呼び、第33回林忠彦賞を受賞しました。本展では「隣りにいる人」「※写真はイメージです」「見ることとは何か」の3部構成からなる同展覧会のうち、視覚障害者とのコミュニケーションに焦点を当てた「※写真はイメージです」のセクションを展示いたします。
作家メッセージ
目を使って仕事をする写真家の自分とは対極にある「見えない、見えづらい世界」を覗いて見たい。そんな好奇心から始まったプロジェクトの第二弾が「ALT」です。
人は情報の80~90%を視覚から得ていると言われています。取材当初、私はその情報を得ずに生きる視覚障害者の人々の苦労ばかりを想像していました。しかし個人差はあるものの晴眼者となんら変わりない彼らの生き方を目の当たりにし、また「視覚障害」と言っても個人個人異なった見え方で、簡単にカテゴライズできるものではないことを知りました。私は知らず知らずのうちに、先入観や偏見を抱いていた自分に気づきました。彼らと会い対話する時、言葉が最も重要なツールとなります。そこではミスコミュニケーションが生じることもあり、言葉でのやり取りにおける難しさを実感せざるを得ませんでした。しかし当然ですが、それは相手が晴眼者であっても起こり得るものです。私は他者との認識のズレに違和感を抱くより、まずは自分の知らない領域に一歩足を踏み入れてみることを優先しました。すると、私ひとりでは辿り着けなかった気づきやアイディアが浮かび、新しい世界が見えた気がしました。
約4年の間に多くの視覚障害者の人々と時間を共有した中で最も興味深かったのは、彼らが頻繁に「みる」という言葉を口にすることでした。私は改めて見ることの意味を考えるようになり、いかに自分の視野が狭いかを思い知る体験をしたのです。目で見ることが全てではない。感じることは見ること。見ることとは何か。
「視覚障害者に興味を持ってくれるのが嬉しい」「面白い形で自分たちの世界を表現してもらいたい」など彼らの言葉が支えとなり、この作品を完成することができました。
*ALTとは
alternateの略。代わりのもの、代替え、交互の、他の可能性、他の手段。X(旧Twitter)では「+ALT」ボタンは代替えテキストの略称で、画像の説明を示す用語として使われています。
2025年7月1日(火) 〜 7月13日(日) 11:00〜19:00 最終日18:00迄 月曜休廊
〒542-0081 大阪市中央区南船場3-2-6 大阪農林会館B1F
06-6251-8108
http://solaris-g.com/
鶴巻育子 つるまきいくこ
1972年東京生まれ。写真家。1997年の1年間渡英し語学を学ぶ。帰国後周囲の勧めで写真を学び始めた。カメラ雑誌の執筆や写真講師など幅広く活動する一方、2019年に東京・目黒に写真ギャラリー Jam Photo Gallery を開設し、著名写真家の企画展や若い写真家への場の提供、アマチュアの育成にも力を注いでいる。国内外のストリートスナップで作品を発表しながら、視覚障害者の人々を取材し「みること」をテーマとした作品にも取り組んでいる。主な個展は「芝生のイルカ」2022年/ふげん社、「PERFECT DAY」2020年/キヤノンギャラリー銀座・梅田、「3[サン]」2015年/表参道スパイラルガーデン など。主なグループ展に「icon CONTEMPORARY PHOTOGRAPHY II」2022年/AXIS Gallery やアルファロメオ企画展「La meccanica della emozioni」2017年/寺田倉庫 などがある。