
© 2025 Shuhei Maeno
Current Exhibition
前野周平 写真展
『 流 ru 』
2025年4月15日(火) ~ 2025年4月20日(日) ※12:00-18:00(日曜17:00迄)
私が子どもだった頃、母は海に連れて行ってくれた。
昼間の海は穏やかで、何もかもがゆっくりと流れていた。
母は夜の海にも何度か私を連れて行ってくれた。
そこは昼間の海と同じ場所とは思えないほど深く滑らかに黒い。
本質的に恐ろしいものが底に沈んでいるように感じた。
波打ち際にすら近づけない。
私は怖かった。
母はひとり、波打ち際へ進んでいく。
その後ろ姿はとても強く、そして遠かった。
*
母は歩けなくなった。
痛みも温度も存在しないものかのように、足の感覚がなくなってしまった。
*
ある夏の日、私は川にいた。
足を浸すと、とろみを帯びた水は私の足にやさしく絡みつき、
陽の光を受け水面は小さく輝いている。
目を閉じる。
目蓋の奥に届いた水面の瞬きは、徐々に私の視界を満たしていき、
足に感じる流れは、より細かく鮮明になっていく。
その場に留まっているのか、流されているのか、
私が流れを置いていっているのかわからなくなる。
ただ、静かな感覚に包まれるようだった。
ふと、あの黒い波打ち際に佇んでいる母の姿が浮かぶ。
あの時の流れの感触を私は知らない。
私はただ遠くからそれを眺めていた。
前野周平 まえのしゅうへい
1990年 鹿児島県生まれ
2012年 東放学園映画専門学校卒業
2012年 撮影部として、映画、ドラマ、CM製作に従事
2018年 フォトグラファーアシスタント
2021年 映像を中心に活動中

© 2025 Ikuko Tsurumaki
Next Exhibition
第33回林忠彦賞受賞記念 鶴巻育子 写真展
『 ALT 』
2025年5月13日(火) ~ 2025年5月25日(日) ※12:00-18:00(日曜17:00迄) 月曜休廊
写真家・鶴巻育子が視覚障害者と関わりながら「見ること」について思考を巡らせるプロジェクト「ALT」。東京のキヤノンギャラリーSで開催された展覧会は大きな反響を呼び、第33回林忠彦賞を受賞しました。本展では「隣りにいる人」「※写真はイメージです」「見ることとは何か」の3部構成からなる同展覧会のうち、視覚障害者とのコミュニケーションに焦点を当てた「※写真はイメージです」のセクションを展示いたします。
鶴巻育子メッセージ
目を使って仕事をする写真家の自分とは対極にある「見えない、見えづらい世界」を覗いて見たい。そんな好奇心から始まったプロジェクトの第二弾が「ALT」です。
人は情報の80~90%を視覚から得ていると言われています。取材当初、私はその情報を得ずに生きる視覚障害者の人々の苦労ばかりを想像していました。しかし個人差はあるものの晴眼者となんら変わりない彼らの生き方を目の当たりにし、また「視覚障害」と言っても個人個人異なった見え方で、簡単にカテゴライズできるものではないことを知りました。私は知らず知らずのうちに、先入観や偏見を抱いていた自分に気づきました。彼らと会い対話する時、言葉が最も重要なツールとなります。そこではミスコミュニケーションが生じることもあり、言葉でのやり取りにおける難しさを実感せざるを得ませんでした。しかし当然ですが、それは相手が晴眼者であっても起こり得るものです。私は他者との認識のズレに違和感を抱くより、まずは自分の知らない領域に一歩足を踏み入れてみることを優先しました。すると、私ひとりでは辿り着けなかった気づきやアイディアが浮かび、新しい世界が見えた気がしました。
約4年の間に多くの視覚障害者の人々と時間を共有した中で最も興味深かったのは、彼らが頻繁に「みる」という言葉を口にすることでした。私は改めて見ることの意味を考えるようになり、いかに自分の視野が狭いかを思い知る体験をしたのです。目で見ることが全てではない。感じることは見ること。見ることとは何か。
「視覚障害者に興味を持ってくれるのが嬉しい」「面白い形で自分たちの世界を表現してもらいたい」など彼らの言葉が支えとなり、この作品を完成することができました。
*ALTとは
alternateの略。代わりのもの、代替え、交互の、他の可能性、他の手段。X(旧Twitter)では「+ALT」ボタンは代替えテキストの略称で、画像の説明を示す用語として使われています。
2025年7月1日(火) 〜 7月13日(日) 11:00〜19:00 最終日18:00迄 月曜休廊
〒542-0081 大阪市中央区南船場3-2-6 大阪農林会館B1F
06-6251-8108
http://solaris-g.com/
鶴巻育子 つるまきいくこ
1972年東京生まれ。写真家。1997年の1年間渡英し語学を学ぶ。帰国後周囲の勧めで写真を学び始めた。カメラ雑誌の執筆や写真講師など幅広く活動する一方、2019年に東京・目黒に写真ギャラリー Jam Photo Gallery を開設し、著名写真家の企画展や若い写真家への場の提供、アマチュアの育成にも力を注いでいる。国内外のストリートスナップで作品を発表しながら、視覚障害者の人々を取材し「みること」をテーマとした作品にも取り組んでいる。主な個展は「芝生のイルカ」2022年/ふげん社、「PERFECT DAY」2020年/キヤノンギャラリー銀座・梅田、「3[サン]」2015年/表参道スパイラルガーデン など。主なグループ展に「icon CONTEMPORARY PHOTOGRAPHY II」2022年/AXIS Gallery やアルファロメオ企画展「La meccanica della emozioni」2017年/寺田倉庫 など。

© 2025 Kazuyuki Okajima
Upcoming Exhibition
岡嶋和幸 写真展
『 NO DOGS 』
2025年6月3日(火) ~ 2025年6月15日(日) ※12:00-18:00(日曜17:00迄) 月曜休廊
この国を初めて旅したとき、"不毛な海岸地域"と形容される場所に偶然たどり着いた。丈の短い草に覆われたピート(泥炭)の平原と、大小たくさんの湖。これまで見たことのない地形が広がっていた。複雑な海岸線と点在する家々。地中から顔を出した無数の岩が入植を拒み、強烈な海風が吹き曝す。遠浅の海は、潮が引くと遙か彼方まで干上がる。その光景を目にしたとき、脳裏を過ったのは地震や津波のこと。いつかまた来たいと思ったが、ほかにも行きたい場所がありずっと後回しになっていた。数年後、ようやく訪れることができたが、帰国直後に震災が発生。その惨状とこの荒涼とした大地の記憶が重なり、恐怖心からその後は足が遠のいてしまった。あれから時が過ぎて怖いと思う気持ちは薄れ、野蛮で美しいこの景色をまた眺めてみたくなった。
岡嶋和幸 おかじまかずゆき
福岡県福岡市出身、千葉県御宿町在住。東京写真専門学校卒業。撮影スタジオ勤務、写真家助手を経てフリーランスとなる。セミナー講師やフォトコンテスト審査員など活動の範囲は多岐にわたる。写真集『ディングル』『風と土』ほか著書多数。写真展も数多く開催している。